かがみの孤城/辻村 深月
★★★★★
・文庫本
・総ページ数 上巻/411 下巻/367
・発売日 2021/3/5
・読書期間/2日
・本屋大賞2018受賞
読書スピードの遅い私ですが、先日一気に2日間で読み終えた『かがみの孤城』についてレビューしていきたいと思います。
あくまで個人的な読み取りであり、個々でのズレはあると思います!
この人はこう感じたんだ〜くらいに思ってください。
あなたを、助けたい。
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。
光り輝く姿見と城
中学入学早々の4月、主人公の「こころ」は一人の女の子に居場所を奪われてしまう。
家に引きこもり、辛い気持ちを言い出せない苦しさと怖さに押しつぶされそうになるこころ。
そんなこころの前に現れたのはいつもと様子の違う『光り輝く姿見』
光り輝く姿見に仰天しながらも吸い込まれるように近づき、鏡に触れた心は中に吸い込まれてしまいます。
鏡の中に入ったこころの前に現れたのは、異空間と容易に感じることのできる様な可愛らしい大きな城の様な建物。
驚いて立ち尽くしているこころの前に、おおかみの面を被った一人の女の子が現れます。
おおかみの面を被った女の子が、こころに『城』のことや『ルール』を話そうとしますが、恐怖心でいっぱいになったこころはすぐさま走り、もといた光り輝く鏡の方へ逃げ出してしまいます。
最初の数十ページでファンタジー要素の強すぎる展開に、苦手な人は少しびっくりしてしまうのでは。
私も、あーなんか聞いたことのあるというか、考えたことあるなーこういうの。と思いながら、文章自体の軽さと鮮明なイメージができる描写表現により、サラサラと読めてしまう、そんな印象でした。
ファンタジー要素も強いですが、文章の中に細かく埋め込まれた心情描写が素晴らしいです。
ここまで読んで最初の4、50ページくらいだったとは思いますが、中学生のこころの世界の全てになっている『中学校』、その『世界』に溶け込めなかったこころの苦しさや恐怖の心情描写が目に見えるように書かれています。
自身が中学生時代に感じた閉鎖感に頭が熱くなるような緊張感と恐怖心を思い出しました。
光り輝く鏡を見た翌日の午前9時、また鏡が光り始めます。
勇気を振り絞って鏡を通り抜けたこころの前に現れたのは、こころを合わせた7人の同年代の子供達と”オオカミさま”と名乗る昨日会った女の子がいました。
オオカミさまは7人に城のルールを話します。
- この城の奥には誰も入れない『願いの部屋』があり、鍵を見つけた一人だけがそこに入ることができ、願いを叶えることができる。
- 期間はこの日から三月三十日までで、願いを叶えるか期間を過ぎると、もうこの城には入れない。
- 城にいられる時間は日本時間で午前九時から午後五時までで、それ以降も残るとその人は狼に食われ、城に来ていた他の人にも連帯責任がかされる。
- ここのことを誰かに話してもいいが、その場合は安全を考慮して鏡は城と通じなくなってしまう。
ルールを言い消えてしまうオオカミさまに困惑しながらも、それぞれの子どもたちは自己紹介をしていきます。
- ポニーテールのハキハキ喋る女子、中三のアキ。
- ジャージ姿のイケメン、中一のリオン。
- メガネをかけた、透き通る声の女子、中二のフウカ。
- ゲーム機をいじる、生意気そうなメガネの男子、中二のマサムネ。
- ハリーポッターに出てくるロンのようなそばかすの物静かな男子、スバル。
- 小太りで気弱そうな男子、ウレシノ。
本来学校に行っている時間に集められた7人の共通点を知りながらも誰も口にはしない。
そんな皆にこころは安心感を抱きながらも、新しい環境に馴染むことに自信を失っていたこころは一ヶ月城を訪れる事をしません。
意を決して鏡をくぐりますが、鏡の先にあるのは”現実”とは違う優しく楽しい空間でした。
恋と団結のきっかけ
順調にいきそうに思えましたが、鏡の中でもこころを悩ませる人物がいました。
ウレシノです。
彼は惚れやすく、最初はアキを好きになり、次にこころに乗り換え城にいる間はこころを追いかけ回します。
こころはウレシノの気持ちよりも周りの様子や、居心地の悪さにウレシノをうっとおしく思い、しばらく城に行けません。
そこでこころは『皆が学校に行けない理由はわからないけれど、ウレシノだけはわかる』と思います。
この文章で私は、内気で周りを気にしてばかりのこころの中が見える様な表現だなと思いました。
それだけ恋愛に対し嫌悪感を示し、自身の気持ちよりも周りの様子を優先しているこころが顕著に現れています。
しばらく城に行けなかったこころは、久しぶりに鏡の中に行くと、ウレシノの”標的”は最後の女子、フウカに変わっています。
ウレシノをネタに一気に仲良くなる女子3人。ここもよくある光景だなと。話題が人を傷つけるような事でも、特に女子は結束力が芽生えるのはこのような場面ですね。
対照的に男子はマサムネの持参したゲームにより仲良くなっていきます。面白いですね。
こころの不登校の理由
ウレシノをきっかけに仲良くなった女子に、こころは自分が中学に行けなくなった理由が恋愛がらみの事だと起こったことを全てアキとフウカに話します。
クラスメイトである真田美織は、こころの小学校の同級生だった池田仲太と付き合い始めます。
仲太は小学校の時にこころのことが好きだったと美織に話し、自分だけが世界の中心にいる美織にとってこころの存在は敵になります。
美織は自分の方が被害者と思っており、クラスの中心ゆえに誰もこころを擁護してくれません。
転入して仲良くなった東条萌もよそよそしい態度でこころを避け始めます。
城の中にあるこころの部屋には、東条萌の家にある”童話の本”が壁一面にあります。
城の部屋にあるものは現実世界では得られないものを表しているのですかね。
極めつけに、美織は友達を10人ほど連れてこころの家を訪れ、外から誹謗中傷し、家の中に不法侵入しようとまでします。
それはいじめという言葉では表現されず、意思疎通のできない人との間に起こる悔しさと恐怖として書かれています。
完全に怯えて恐怖に耐えられなくなったこころは不登校になってしまいます。
私は、いじめについて再度考えました。
意思疎通が出来ない相手とはお互い理解しあえず、閉鎖された学校という世界の中では強者が居場所を奪ってしまう。
その強者もいじめという感覚ではなく、自身が被害者であると感じている。
一言で”いじめはやってはいけない”という言葉では片付けられないと感じました。
前に進む皆と焦るこころ
久しぶりに全員で集まったある日、突然スバルが茶髪になって現れます。
兄とその彼女に無理やり脱色され、ピアスも強制させられたといいますが、その顔は何でもないというような表情で、誰もうまく反応できません。
こころはスバルの変化や”兄貴の彼女”という言葉に、スバルを遠くに感じてしまいます。
すると今度はウレシノが口を開き、二学期から学校に行くことを怒りを交えながら伝えます。
ウレシノはみんなから見下され、自身の恋心もおちょくるのは僕だからいいと思っている!と話します。
学校に行くことでお前らとは違うのだとアピールするつもりでした。
その言葉は図星です。そのことに気づくこころは心の中で謝ります。
しかし、リオンはちゃんと学校に通っていて、しかもハワイの寄宿舎つきの学校で、親元を離れて一人で暮らしているのだと言います。
同じ境遇だと思っていた他の皆が前に進もうとしている姿にこころは焦りとともに裏切られたと感じます。
それでもみんなはそのことを無かったことにしてやり過ごそうとします。
しかし、今度はアキが髪色を明るい赤色にしてきました。
こころたちはさらに動揺します。
そんな中、ウレシノは二学期が始まって二週目のある日、顔にガーゼを当て、腕に包帯を巻き、顔を腫らした状態で城に現れます。
この傷はクラスメイトにやられたものだが、決していじめではないとウレシノは言います。
中学で仲良くなった友達と遊ぶようになりその間に上下関係はなく、ただ友達として奢ったりしていたとウレシノは話します。
するといじめだと判断した先生(だったと思います)がウレシノの両親にそのことを話し、両親に怒られ、ウレシノの友達も怒られ、何もかもが嫌になってウレシノは不登校になります。
二学期の初め、登校したウレシノは意を決して友達に謝ります。先生に勘違いされた結果、怒られちゃってごめん。と。
しかし友達は奢ってもらえないなら用はないとウレシノを切り捨て、ウレシノは頭に来て手を出してしまいます。
そんな話を聞いた城の皆は、ウレシノを労います。
ウレシノ目線での受け取り方と友達の考えのズレがあります。
大人の世界の広さと子どもの世界の広さには大きな差があり、本当の子どもへの手助けとは何かと考える必要がありますね。
一方、現実にて、学校に通えない子どもを支援しているフリースクールの喜多嶋先生がこころの家に訪れ、二人で話すことに。
喜多嶋先生は、こころの日々を闘っていると言ってくれ、これまでの日々は無駄じゃないと肯定してくれます。
こころとは違う世界に行った”大人”の喜多嶋先生に理解され受け入れることが出来ました。
鍵と皆の願い
ここで久しぶりに鍵の話が出てきます。
この城の奥には誰も入れない『願いの部屋』があり、鍵を見つけた一人だけがそこに入ることができ、願いを叶えることができる。
これですね。
今まで真剣に探しても鍵が見つからなかったから、協力しないかとアキとマサムネが提案します。
皆は相談し、見つかったら公平な方法で願いを叶える一人を決めること、ここに一日でも長くいられるように、鍵を見つけても最後の日まで願いを叶えないことを決め、全員ですでに探した場所を挙げていきます。
すると、そこにオオカミさまが現れて、『願いを叶えた時点で、みんなは記憶を失う』と話します。
誰もが言葉を失います。
しかし、もし願いを叶えなければ、そのままの記憶を保持することができる。
理不尽とも思えるルールの説明に一同は怒り、皆は記憶を無くしたくないと漏らします。
しかしアキだけは城の記憶という形に残らないものより、願いを叶えることを優先するように見えました。
それからしばらくアキは来ませんでしたが、ある日こころが城を訪れると、制服姿で泣き崩れしゃがんでいるアキを見つけました。
こころは泣き崩れたアキの姿よりも、こころと同じ『雪科第五』の制服を着たアキに衝撃を受けます。その後来た皆も同様に驚きを隠せない様子です。
夕方になって全員が揃い、リオン以外は雪科第五中学の生徒で、リオンは留学の話がなければそこに通うはずだったと話します。
会うことのない人だと思っていた存在が急に身近になり、いくつか食い違いこそありますが、どれも自分たちが知っていることで、改めて七人は本当に近い場所に暮らしていることを実感します。
現実世界ではこころの担任の伊田先生が家を訪問することになり、こころはここで初めて美織のことが嫌いなこと、美織にされたことを母親に打ち明けます。
翌日来た伊田先生は家を訪れて”美織と会ってほしい、きついけどいい子なんだ”と話します。
ここでもこころの世界と伊田先生の世界のズレを感じます。
美織の世界線にいる伊田先生にこころは強く嫌悪します。その人の”正しいこと”は相手の”正しいこと”なのか考えるきっかけとなりました。
三学期の始業式に集まろう
皆が城にいる日、マサムネが相談があるといい、三学期に一日だけでみんなに学校に来てほしいのだといいます。
マサムネの両親は三学期から別の学校に通うことを検討していて、みんなと離れるのが嫌なマサムネは三学期から学校に通えることを親に見せ、転校をせめて二年生になるまで引き延ばそうと考えます。
一人で行くのは怖いマサムネは、保健室でも音楽室でも、午前中だけでもいいからみんなが来てくれたら心強いと。
皆それぞれの感情を抱きながらも、皆で”助け合える”と信じ、行くと答え、一月十日の始業式の日に学校に行くことを約束します。
こころはそのことを母親に伝えると、心配されると同時に始業式はもう終わっていると言われますが、マサムネが勘違いしたのだと深く考えずにみんなに会えることを心の支えにして学校に行きます。
学校に着いたこころは靴箱で転校生で最初に仲良くしていた東条萌に会います。しかし萌はこころと目があっても声をかけずに去っていきます。
こころは再び息の詰まるような嫌な感覚を思い出し、上履きの上に手紙が置いてあることに気が付き、すぐに読みます。
差出人はこころの不登校の原因となった真田美織。
彼女は伊田先生から今日こころが登校することを言われ手紙を書いたのです。
手紙の内容は、もう彼氏の池田忠太(I君と書かれている)のことは好きじゃない。もしこころが好きなら応援する。と書かれています。
こころは途中で手紙を読むのをやめて保健室に向かいます。
すごく辛いですよね。そんなことどうでもいい。どこまでも話の交わらない相手に怒りと虚しさがこころを襲います。
保健室まで行ければ誰かが待っているはず。
そう期待してドアを開けますが、いたのは養護の先生だけです。
皆の名前を出して学校に来ていないか確認しますが、先生は『そんな生徒はいない』と話します。
こころはパニックになりますが、喜多嶋先生がそこに現れ、こころは緊張の糸が切れて気絶し、目を覚ましてから事情を説明します。
しかし、マサムネやウレシノとも会ってるはずの喜多嶋先生でも彼らのことを知らず、こころは自分の妄想が生み出した存在なのかと疑います。
一方、こころが気絶した拍子に手紙が見えてしまったという喜多嶋先生はその内容にも手紙を書かせた伊田先生にも激怒し、これまでのようにこころの気持ちに寄り添ってくれます。
こころは初めて学校だけが全てじゃないと教えてもらい、その日はそのまま家に帰ります。
一階で母親と喜多嶋先生が話している間にこころは自身の妄想でないことを確認するため城に向かいます。
そこにはリオンだけがいます。
リオンの顔を見たこころは安心します。
こころの話を聞いたリオンは
”オオカミさまは自分たちのことを赤ずきんちゃんと呼ぶが、あれはフェイクじゃないのか。”
そして、
”姉ちゃんを、家に帰してください”
という鍵を見つけた際の願いをこころに話します。
リオンの姉は彼が小学校に入った年に病気で亡くなっていたのです。
こころは美織を消したいという自分の願いの小ささを知り、彼の願いが叶うことを願うのでした。
パラレルワールドと×印
翌日、こころが城に行くとマサムネ以外の皆がいて、学校に行ったが、誰も来なかったとそれぞれが言います。
マサムネは一か月後に城に来ました。
彼はこの一か月の間、その理由を自分なりに考え、一つの結論を出します。
それは、七人はパラレルワールドの住人同士で、住む世界が違うのだといいます。
だから同じ中学に通っているけれど、周辺のお店や学生数も違う。
みんなは自分の感じていた違和感を口にし、似ているけれど違う場所に住んでいることを確認して愕然とします。
また日付と曜日もバラバラで、ウレシノに至っては一月十日も翌日も学校は休みだったといいます。
こころたちは会えないし、助け合えない。
そこに突然現れたオオカミさまはこれを否定し、外でも会えないとは言っていないといいます。
また、鍵探しのヒントは最初からずっと出しているとも。
するとリオンは、自分の部屋のベッドの下にある×印は何かと聞き、他のみんなも×印を知っていると口にします。
机の下、お風呂の洗面器の下、暖炉の中、台所の戸棚の中。
しかし、これが何を意味するのかオオカミさまは答えません。
リオンは、切り替えて違う質問をします。
”好きな童話はなにか”
これに対し、オオカミさまはこの顔を見れば分かるだろうと『赤ずきんちゃん』だと答えます。
オオカミさまはいなくなり、七人は残りの時をどうするのか考えるのでした。
七人は城での残り少ない時間を大事にしようと話します。
東条萌の気持ち
現実世界ではこころ宛てに東条萌から手紙が届き、そこには”ごめんね”と書かれていました。
城の閉まる前日、こころは皆のために買い出しのため現実世界の外に出ます。
そこで東条萌と偶然出会い、家に来ないかと誘われます。
東条萌は靴箱で会った時は、自分が美織たちから仲間外れにされていること、自身がこころに話しかける事で逆にいじめの対象が変わってしまいこころに戻ってしまうことを考え話かけなかったと話します。
そして仲間外れにされた原因は、またもや”恋愛”の話でした。
現実世界では同世代の誰にも理解されなかった”こころの世界”と”美織の恋愛の世界”の違いに悩まされていましたが、萌が”どうでもいい”と美織の世界を一蹴します。
こころはそんな萌の考えに触れ、4月で引っ越す東条萌と最後に話せて良かったと言って萌の家を後にします。
ここではやっと同世代と話が通じ、その相手がずっと憧れのような気持ちを持っていた萌であったことに心が晴れていくような描写だと感じました。
鏡が割れる
ところが家に戻る途中、こころの部屋から窓が光り、バンッ!と何かが弾ける音がします。
部屋に戻ると、鏡が割れています。
こころが焦りオオカミさまを呼ぶと、割れた鏡の向こうからみんながこころを呼びます。
”助けて。アキが、ルールを破った。”
五時を過ぎてもアキが帰らなかったから、その日、城にいた人間はみんな呼び戻され、これから罰を受けるのだといいます。
最後にリオンの『赤ずきんじゃない。オオカミさまは……』という声が聞こえました。
こころは焦りながらもどこか冷静で、願いを叶えてアキのルール破りをなかったことにしてもらうしかない。そう思います。
するとそこでインターホンが鳴り、先ほどの光と音を気にした萌が様子を見に来てくれます。
こころは何でもないと言いますが、ふとさっきのリオンの言葉を思い出し、萌に『七ひきの子やぎ』の原画を見せてほしいとお願いし、萌は怪訝そうですが何も聞かずに貸してくれます。
部屋に戻ると割れた鏡から城に行きます。
あんなに鮮やかだった城は色を失い、とても暗い色をしています。
それぞれの記憶
城の中の至る所には×印があります。全部で6箇所。
マサムネ
ひとつに触れると、頭の中にマサムネの記憶が流れ込んできます。
マサムネは嘘をつくことから友達から『ホラマサ』と呼ばれていました。
仲間外れになったのは自分のせいかもしれないのにそれが言えず、いつしか周りのせいにするようになりました。
三学期の始業式の日、保健室で仲間を待つ彼と一緒にいたのは喜多嶋先生でした。
こころは萌から借りた本を読み、確信します。
オオカミさまは嘘をついていました。
この城の中に隠された鍵を探すヒントは全て『赤ずきん』ではなく『七ひきの子やぎ』で、×印は子ヤギたちが隠れた場所を示しています。
そして絶対に見つからない安全な場所は大きな時計の中であり、そこに願いの鍵があるとこころは確信します。
狼の雄たけびが聞こえる中、こころは城にある×印に触れてはみんなの記憶を読みます。
ウレシノ
暖炉の中にある×印に触れると、ウレシノの記憶が流れ込みます。
彼は日曜日にもかかわらずマサムネのために学校に行き、周囲から奇異の目で見られても仲間のことを考えると、幸せでいっぱいでした。
そしてウレシノを迎えに喜多嶋先生が現れます。
スバル
次は洗面器の下の×印。
スバルの記憶です。
スバルが髪を脱色したのは本人の意思であり、兄からは興味を示されることも無い状態でした。
古びた家の中で光る鏡は祖母の化粧鏡です。
両親を亡くし、祖父母との暮らしはつまらなく、人生なんてどうでもいいと思っていました。
フウカ
次はフウカの部屋の机の下にある×印。
フウカは幼い頃に一人の先生からピアノの天才と呼ばれ、母親はそれを信じ彼女に過剰なレッスンを受けさせます。
しかし、全国コンクールでは思ったような成績が残せず、勉強にもついていくことができない。
古く狭いアパートに不釣り合いなグランドピアノ。母親は貧乏になってもフウカという可能性にかけ、フウカもそれに応えるしかない。
苦しい思いをしてきましたが、この城に来てフウカは普通の友達との日々を手に入れることができ、初めて自分で良かったと思えるようになっていました。
またフウカはみんなの話を聞いて『心の教室』を訪れ、喜多嶋先生とも知り合いになっていました。
喜多嶋先生はフウカの悩みを聞き、ピアノも勉強も両方やろうといいます。
城の部屋に篭りがちだったフウカは部屋で勉強をし、次第に心に落ち着きを取り戻していきます。
リオン
次はリオンの部屋のベッドの下にある×印。
リオンの記憶です。
リオンが五歳の時、姉のミオは十二歳でしたが、入院していました。
髪がなくて帽子を被っていますが、彼女はリオンに『七ひきの子やぎ』の絵本を読んであげてます。
そしてミオはリオンに、いつまでも元気でママたちの側にいてあげてほしいと願いを伝え、自分がいなくなったら神様に頼んでリオンの願いを一つだけ叶えてもらうといいます。
まだ5歳のリオンは、姉の病気も、死ぬということも、知りません。
ミオと学校に行きたいといい、ミオも一緒に行きたい、一緒に遊びたいとこぼします。
ミオの死後、リオンはミオの願いを叶えようと母親のそばにいますが、子を失った母親の気持ちは不安定となり、”リオンの元気を少しでもあの子に分けれたら…なぜリオンだけが元気なのか”と漏らします。
母との間にできた溝は埋めることができず、リオンは母の勧めのままハワイへの留学を決めます。
そしてリオンは、こころよりも先にオオカミさまの正体に気が付いていました。
リオンの記憶を見終えると、オオカミさまが現れます。
こころは一つ、「私たち、会えるよね?」と聞き、オオカミさまも否定しません。
アキは願いの部屋にいるとオオカミさまはいいます。
アキ
今度はアキの部屋のクローゼットの×印に触れます。
アキの記憶が流れ込んできます。
祖母の葬式の日、アキは義理の父親に性的暴力をふるわれ、寸前のところで、オオカミさまが、近くにあった手鏡を光らせ助けてくれます。
アキはここに住みたいと言いますが、その願いはあっけなく却下されます。
この日は、アキが制服姿で泣いていたあの日の出来事です。
そして城が閉まる前日の日。
アキは五時になる前にクローゼットの中に隠れ、自分を探すウレシノの声を無視して、みんなを巻き込むことを覚悟した上で帰りたくないと思います。
狼の雄たけびが響き渡り、クローゼットの扉が開くと狼の顔と大きな口がそこにありました。
その時、逃げないで!と誰かの声が聞こえます。
アキを呼び、手を伸ばして!と。
それはこころでした。
違う時間
この時、こころは大きな時計の中、つまり願いの部屋にいます。
こころは自分たちは助け合える、会える、だから生きて大人になっていい、自分はアキよりも未来に生きていることを伝えます。
こころは気が付いたのです。パラレルワールドではなく、七人は違う時間を生きているのだと。
皆の全ての記憶を確認したこころは確信しました。
マサムネの記憶にある喜多嶋は、こころが知る喜多嶋よりも年をとっていて、スバルの身の回りのものは古いものばかりでした。
確証を得たのはフウカの記憶で、カレンダーには2019年、こころが過ごしている時間よりも十四年も後の年でした。
さらにアキの記憶ではポケベルが登場し、1991年とカレンダーにありました。
オオカミさまは会えないとは言っておらず、つまり大人になることでその先の子たちと会うことが出来るのです。
だからこころは大時計の振り子の裏に隠された鍵を見つけると、時計の奥を開けて願います。
アキのルール違反をなかったことにしてくださいと。
すると光が溢れ、こころはアキを呼びます。
伸ばした手を握られる感触があり、こころは引っ張ります。
背後からみんなの声が聞こえ、六人でアキを引っ張り上げます。
アキが戻ってくると、みんなで彼女を怒り、アキも涙を流します。
でも本当に怒っている子などいなくて、みんながアキが無事だったことの喜びを噛み締めます。
すると拍手が聞こえ、お見事だったとオオカミさまは言うのでした。
城の最後の時間
最後にみんなの名前と生きている年代が明かされます。
スバル、長久昴は、1985年。
アキ、井上晶子は、1992年。
こころとリオン、水守理音は、2006年。
マサムネ、政宗青澄(あーす)は、2013年。
フウカ、長谷川風歌は、2020年。
ウレシノ、嬉野遥は、2027年。
『七ひきの子やぎ』になぞらえられた七年差ごとに生きる七人の子ども。
マサムネが指定した日の曜日がバラバラだったことも、年代が違うことで説明がつきます。
みんなは自分の時代のことを話すことでこれまでの疑問点を解消しますが、残された時間はあとわずかです。
そして別れの時間は訪れ、七人は記憶を失っても再会を約束して現実に戻っていきます。
リオン
残されたオオカミさま。
すると、そこにリオンだけが戻ってきて、彼女のことを姉ちゃんと呼びます。
リオンは初めからそうかもと予感がありました。
城が三月三十日で閉まる理由、それはその日がこの世界を作るミオの命日だからです。
さらにミオはリオンの七歳差、つまり抜けていた1999年の子どもです。
ここはミオの好きなドールハウスにそっくりで、ミオはリオンの願いを叶えようとしたのです。
ここにいるオオカミさま、それは病室で寝ているミオであり、現実では病室のベッドで寝ています。
またオオカミさまは、現在のミオよりも幼い姿をしていますが、それは髪がまだ生えている元気だった頃の自分を再現したからです。
オオカミさまは何も答えませんが、感謝を伝えたリオンは最後に願います。
みんなのことを、姉ちゃんのことを覚えていたいと。
すると、オオカミさまは”善処する”とだけ答えます。
その姿が消えゆく中、オオカミさまは最後に面を外し、リオンに向かって微笑んだように見えました。
場面は変わり、再び学校に通うことを決意したこころですが、通学途中で声を掛けられます。
そこに後ろから声をかけられます。
それはリオンで、記憶を失っているにも関わらず、こころはなぜか彼のことを知っているような気がして、おはようと笑いかけるのでした。
喜多嶋先生
アキは自身の過去の経験をもとにフリースクール『こころの教室』の設立に協力。
こころの教室を通して夫となる”喜多嶋”と知り合います。
アキは記憶にはありませんが今でも腕に残る強い痛みの感触(こころが救ってくれた時の)だけを感じます。
アキは中学1年生のこころと出会い、ずっとこの時を待っていたような気持ちがして、腕の痛みが蘇ります。
不安そうなこころに対して、アキは大丈夫だよと何度も唱えます。
その時、アキはこころの部屋にある姿見を見ておやと思います。
そこには、中学時代のアキとこころが映っているように見えました。
感想
この『かがみの孤城』は辻村深月さんの作品の中でも上位に入る作品だと感じました。実際に賞も取ってらっしゃいますね。
本当にページを捲る手が止まらず、久しぶりに読書にどっぷりハマりました。
文章の軽さとは裏腹に心やその他の6人の繊細な感情が随所に読み取ることが出来ます。
後半になると、あぁ時代が違うのかと勘のいい人は気付いてしまいますが、この本はオチの重要さよりも皆の心の動きに夢中になりました。
大人になった今の世界、学校が全てだった頃の世界、自身の世界と他人の世界、全て違うものであり、”理解しようとする”というような簡単な事では無いと感じます。
”いじめ”という一括りにした言葉でなく、それぞれの世界で、他の人のズレを認識し受け入れる必要がある。そう教えていただいたような気持ちになりました!
星、5つ!!!